東京高等裁判所 平成11年(行ケ)272号 判決 2000年5月10日
原告
同和鑛業株式会社
代表者代表取締役
【A】
訴訟代理人弁理士
【B】
被告
特許庁長官【C】
指定代理人
【D】
同
【E】
同
【F】
同
【G】
主文
特許庁が、平成10年異議第75696号事件について、平成11年6月28日にした特許異議の申立てについての決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた判決
1 原告
主文と同旨
2 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は、名称を「短波長磁気記録媒体用金属磁性粉およびこれを用いた磁気記録媒体」とする特許第2756467号発明(以下、請求項1、2に係る発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
上記特許(以下請求項1、2に係る特許を「本件特許」という。)の出願から設定登録までの経緯は、次のとおりである。
昭和63年8月24日 特許出願(特願昭63-210359号)
平成2年2月27日 出願公開(特開平2-58727号)
平成9年10月6日 手続補正(以下「本件補正」という。)
平成10年3月13日 設定登録
松本信雄は、平成10年11月24日、本件特許につき特許異議の申立てをし、同申立ては平成10年異議第75696号事件として特許庁に係属したところ、特許庁は、平成11年6月28日、「特許第2756467号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、平成11年7月30日、原告に送達された。
(2) 原告は、平成11年12月13日、前記特許願書添付明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載を訂正する訂正審判の請求をしたところ、特許庁は、同請求を平成11年審判第39104号事件として審理した上、平成12年2月4日、上記訂正を認める旨の審決(以下「訂正審決」という。)をし、その謄本は、同年3月27日、原告に送達された。
2 本件明細書の特許請求の範囲の記載
(1) 願書に最初に添付された明細書(出願公開時の明細書と同じ。)の特許請求の範囲の請求項1、2の記載
イ 請求項1
Feを主成分とする磁気記録媒体用金属磁性粉において、該磁性粉が10未満の軸比および35㎡/g以上の比表面積を有することを特徴とする短波長磁気記録媒体用金属磁性粉。
ロ 請求項2
Feを主成分とする金属磁性粉を支持体上に含有させた磁気記録媒体において、該磁性粉が10未満の軸比および35㎡/g以上の比表面積を有し、記録波長が1μm以下の磁気記録媒体。
(2) 本件補正後、訂正審決による訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2の記載
イ 請求項1
Feを主成分とする磁気記録媒体用金属磁性粉において、該磁性粉が6以下の軸比、135emu/g未満の飽和磁化およびBET法で63㎡/g以上の比表面積を有することを特徴とする短波長磁気記録媒体用金属磁性粉。
ロ 請求項2
Feを主成分とする金属磁性粉の磁性層を支持体上に形成させた磁気記録媒体において、該磁性粉が6以下の軸比、135emu/g未満の飽和磁化およびBET法で63㎡/g以上の比表面積を有することを特徴とする短波長用磁気記録媒体。
(3) 訂正審決による訂正後の特許請求の範囲の請求項1、2の記載
イ 請求項1
Feを主成分とする磁気記録媒体用金属磁性粉において、該磁性粉が6以下の軸比、113emu/g以下の飽和磁化およびBET法で63㎡/g以上の比表面積を有することを特徴とする短波長磁気記録媒体用金属磁性粉。
ロ 請求項2
Feを主成分とする金属磁性粉の磁性層を支持体上に形成させた磁気記録媒体において、該磁性粉が6以下の軸比、113emu/g以下の飽和磁化およびBET法で63㎡/g以上の比表面積を有することを特徴とする短波長用磁気記録媒体。
3 本件決定の理由の要旨
本件決定は、本件発明の要旨を訂正前の特許請求の範囲記載のとおりと認定した上、次のとおり判断し、本件特許が特許法29条1項3号に違反するとして、本件特許を取り消した。
(1) 金属磁性粉の飽和磁化を135emu/g未満に限定する本件補正は明細書の要旨を変更するものであるから、本件特許出願は特許法等の一部を改正する法律(平成5年法律第26号)附則2条2項、上記改正前の特許法40条により、本件補正の補正書を提出したときにされたものとみなされる。
(2) 本件補正後の特許明細書の請求項1及び2に記載された発明は、本件補正の前に公開された本件発明の公開公報(特開平2-58727号)に記載された発明である。
第3当事者の主張の要点
1 原告
本件決定が、本件発明の要旨を訂正前の特許請求の範囲記載のとおりと認定した点は、訂正審決の確定により特許請求の範囲が前示のとおり訂正されたため、誤りに帰したので、本件審決が本件発明の要旨の認定を誤った瑕疵は違法であり、本件審決は取り消されなければならない。
2 被告
訂正審決の確定により本件発明の特許請求の範囲が前示のとおり訂正されたことは認める。
第4当裁判所の判断
訂正審決の確定により本件発明の特許請求の範囲が前示のとおり訂正されたことは当事者間に争いがなく、この訂正によって、金属磁性粉の飽和磁化の数値限定が「135emu/g未満」から「113emu/g以下」に訂正されたことにより、本件発明の特許請求の範囲は減縮されたことが明らかである。
そうすると、本件決定が本件発明の要旨を訂正前の特許請求の範囲記載のとおりと認定したことは、結果的に本件発明の要旨の認定を誤ったこととなるから、本件決定がこの認定を前提として本件発明はその公開公報に記載された実施例の発明と同一であると判断したことも誤りであったといわざるを得ない。そして、この誤りが本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、本件決定は取消しを免れない。
よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 長沢幸男)